ヨーロッパ人の歯に関する意識と
実態をレポート
■仕事も恋愛も歯に左右される!?
シビアな環境
欧米では乱杭歯に八重歯、抜け歯、そして治療済みの銀歯でさえも“貧困の象徴”として敬遠されがちであるため、少々家計が圧迫されようと、子供たちの将来を見据えて歯科治療や歯列矯正に相当額をつぎ込む家庭は珍しくありません。また黄ばんだ歯は清潔感に欠けるとして、美容院感覚で歯のホワイトニングに定期的に通うというのもよく聞く話です。そんな丁寧にケアされた歯は、外見の中でもっとも自己管理能力が表れる部位のひとつとして、仕事面においても多大な影響を及ぼしており、ビジネスパートナーとの取引は言わずもがな、就職や昇進にまでかかわるとの暗黙の了解が厳然と存在している模様。
ビジネスシーン以外でも美しい歯を好む人は少なくなく、知り合いのスペイン人男性などは、「どれだけ丁寧にブラッシングしていようと、歯並びの悪い女性とはキスする気になれない」との辛辣な意見を放っていたほど。
このようにヨーロッパでは、歯ひとつで仕事も恋愛も成否が決まりかねない状況であるようです。
■定期健診や基本治療は無料の国も!高福祉と口腔ケアの長い歴史
■定期健診や基本治療は無料の国も!
高福祉と口腔ケアの長い歴史
そんな、歯に対してシビアなヨーロッパですから、歯科定期健診や口腔ケアに通うのも日常的行為ですし、ドイツでは、加入する保険によって定期的な口腔衛生ケアの証明が義務付けられているケースまである様子。私の在住するオーストリアでも、クラウンやインプラントといった高額治療を除くベーシックな治療や定期健診は国民保険が全額適用されますし、医師の判断により未成年者の歯列矯正も無料で施術されるなど、寛大な保険システムが歯の健康を後押ししている国が多いことも見逃せません。
一方で口内環境改善を図る歴史も長く、オーストリアの首都ウィーンでは今から30年前の段階で既にほとんどの子供がフッ素錠剤を毎日経口摂取しており、学級児童の半数が何らかの歯列矯正器具を着用していたとも伝え聞くほどです。またフィンランドでは1980年の時点でキシリトール入りガムが国全体で導入されたことは有名ですし、ヨーロッパはアロマテラピー発祥の地として、オーガニック製のティーツリーオイルを用いた歯周病予防といった古来からの知恵も連綿と受け継がれています。
かくして、豊かな福祉と長く培われてきた口腔ケアの歴史が、ヨーロッパ人の歯に対する意識を更に高めているのは間違いないでしょう。
日本はヨーロッパと比較すると、考え抜かれた栄養バランスの食事や完璧な紫外線対策など、健康面でも美容面でも国民の意識が抜きんでて高く、専門家レベルの知識を備えている一般人も少なくありません。しかし、歯科分野に限ってはヨーロッパと逆転現象が起こっており、これだけ切実であるにもかかわらず、なぜか放置されてしまいがちな印象です。
特に歯周病は、痛みもなく進行する「サイレント・ディジーズ(静かなる病気)」と称され、日本人の30歳以上ではなんと約8割もの人が患っていると言われる病気。手遅れになってしまう前に歯科分野の情報収集に励み、定期健診や家庭でのセルフケアを万全に行うことが肝心なのではないでしょうか。
美味しい食事も病気知らずの楽しい人生も、すべて歯の健康があってこそ。一人ひとりが丈夫な歯と美しい歯並びを保持し、いずれ“歯科分野の先進国”と称賛されるよう、益々取り組んでいきたいものですね。
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